ゆっくり小学校 ≫ 授業風景

ゆっくり小学校はじめました!

 「きみは地球だ」と、生物学者のデヴィッド・スズキ博士は言った。この言葉は、スロー・スモール・スクール(ゆっくり小学校)立ち上げのためのイベントタイトルでもあったのだが、「わたしは地球です」と言える生き方を学べるような居場所を目指して、スロー・スモール・スクールが、2014年6月、辻信一校長のナビゲートでゆるりと開校した。

 スロー・スモール・スクールは、311後のある日、辻さんから持ちかけられて設立に向かった。その時に教えてもらったのが、辻さんの師である鶴見俊輔さんがあのヘレン・ケラーに偶然出会ったときのエピソード。ヘレン・ケラーはまだ学生だった鶴見さんにこう言った。「あなたはなにを勉強しているの? わたしは、一生懸命、アンラーン…」

 このアンラーンという言葉を鶴見さんは「学びほぐす」と訳した。311を経験したわたしたちにできること…、それは、社会悪のようなものに対して声をあげていくことも必要かもしれない。でももっと大切なのは、自戒を込めて、もう一度、これまでの学びをほぐし、編み直していくことなんじゃないか―。

 この話し合いから3年、文字通りゆっくりなペースで、小さな学校ははじまった。「5人集まってくれたらいいね~」とドキドキしていたら、大した呼びかけもしていないのに24名のあらゆる世代の人々が集まってくれた。みな感じがよくって、知的好奇心旺盛な小学生ばかり。なかには辻さんのことをまったく知らない人もいる。ワオ!

 この学校は、敬愛するサティシュ・クマールさんのシューマッハー・カレッジに倣う、頭と心と手をつかった学びの場。「まずは、食べ物からはじめましょう」とのサティシュさんからの教えの通り、教室にはキッチンが5つあって、オーガニック食材をみんなで調理していただく。食事のときや、折りに触れて瞑想をして、いまを大切に意識することを忘れない。座学はなかなか難しい。名前は小学校でも、大学院並みの講義が連なっている。

 かつて、高度経済成長と東京オリンピックを謳歌していた少年が、オリンピックが終了しても、いつまでたっても終わらない工事に抱き始めた違和感…、それらを振り払うようにアメリカに渡り学びを深めていった。ゆっくり小の講義は、その辻さんの過去にタイムスリップして、さまざまな学びを得ながら現代にまでさかのぼり、スロー学に到達する。辻さんの学びなおしの旅に同行し、あらゆる思想を学んでいくのだ。この学校は辻信一のつくり方でもある。

 なによりこの学校最大の魅力は、小学生になれる! ということ。いくつになってもピカピカの一年生なるのはうれしい。本当は、いくつになってもピカピカであるはずなのに、システムに流されるうちに、輝きを失ってしまう。わたしたち自身の輝きを取り戻すこと、これが、この学校のサイコーにいいところ! と用務員のわたしは思っている。

 この学校の開校から数日後、集団的自衛権の行使容認が政府で閣議決定された。それにはもちろん憤りを感じるが、それ以上に残念だったのは、その日の日経平均株価が上がったこと。その日発表になったアメリカの雇用統計が好感触だったのだ。平和や、未来を担う子どもたちの将来や、いのちに大きくかかわる日に、経済の行方に心を奪われている大人たちがいることがなによりも悲しい。

 わたしたちの生活やいのちとはまるで関係ないかのように、経済を中心に世界が動いている。経済といのちは関係がないはずはなく、いのちは経済より大切なはずもない。「わたしはカネ」ではない。「わたしは自然の一部」であり、「わたしは地球」なのだ。

 「わたしは地球です」と言える学校―、スロー・スモール・スクールがいよいよはじまった。

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ゆっくり小の教室の風景と講義の様子

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参加者それぞれから、好きな言葉・詩と、宿題“わたしの石”の紹介

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給食担当から、今日のランチメニューと調理の手順が発表される

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ゆっくり小のキッチンはみんなでゆったり調理ができる!!

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食事の前に「五観の偈(ごかんのげ)」でお祈りを

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「婦人之友社」協力のもと、池袋の「友の家」が教室の場所