連載10 ナマケモノと幸せの経済学
いよいよ、ナマケモノ先生の登場。ノソノソ……
20年前、南米の熱帯雨林でナマケモノという動物に出会いました。それは、多くの人々が信じていたような進化史の失敗作どころか、人間に生き方を教えてくれる森の賢者だったのです。
動きがのろいのは筋肉を最小限にして低エネ生活を送るため。豊富な葉っぱが食料なので、他の動物と競合せず平穏な暮らしができる。体が軽いから、安全な木の高みにぶらさがれる。週に一度、リスクを冒して木の根元に降りて排泄するのも、木から得た栄養を確実に木に戻すため。
こんな平和・低エネ・循環型の生き方をしたいと、ぼくは「ナマケモノになる」決意をしたのです。
同じ頃、南米やアジアの“貧しい”国や地域を訪ねては、そこに暮す人々のゆとりに満ちた幸せそうな生き様に感銘を受けたものです。「所有」より「分かち合い」、「得ること」より「与えること」に幸福があるという間隔が生きているのは、先進国より途上国、都会より田舎、富者より貧者の方でした。
彼らは「貧しい」のではなく、ただ、必要異様のよけいなことをしないでいるだけなのでしょうか。そして、「足るを知る」知恵によって、かえって心の平穏を得ているのでは……
では、世界中が追い求めているはずの「豊かさ」とは何だったのか。それは、「もうこのくらいで十分」という感覚を捨て、永遠に「より多い・より速い・より大きい」方へと、「もっと、もっと」を追いかけ続けること。それが永遠の経済成長なるものです。
その「豊かさ」の指標であるGNP(国民総生産)をもじったGNH(国民総幸福)を国是として掲げたヒマラヤの小国ブータンに、今世界中が注目しています。それは、経済成長が必ずしも幸せをもたらさないばかりか、深刻な環境問題や社会問題を引き起こし続けてきたことが、もはや明白だから。
もう何十年も、先進国は開発を推し進め、経済成長によって世界の貧困を撲滅するのだ、と言ってきました。でもどうでしょう?
環境破壊が進み、気候変動で災害が多発し、富の格差は広がるばかり。ガンディーが言ったように、問題なのは「貧しさ」ではなく、「豊かさ」の方なのです。
長い間、豊かで平穏な暮らしを享受してきた多くの伝統社会が、お金と言う仕組みに依存するにしたがって、貧しく不幸になっていきました。つまり、問題は「お金がない」ことではなく、「お金がなくては生きていけない」仕組みだったのです。
ゆっくり小の生徒は、ナマケモノ先生からしっかり引き算を学びましょうね。
2014年 婦人之友 10月号掲載