サティシュ・クマール ≫ Books ≫ サティシュ・クマール

大野晃子さんより、
『怖れるなかれ』へのメッセージ

 あなたの人生のターニングポイントとなる人との出会いは、誰ですか? 私にとってはサティシュ・クマールこそが、その人です。お金を一切持たずに、人を信じて、自分を信じて、平和の為に、世界一周をまさに歩いた人。キラキラとした瞳で語るサティシュの言葉に、私は道を照らしてもらいました。
 サティシュは偉大な私の先生でもあるのに、会うたびに、愛おしさのあまり、思わず「サティシュ-!」と叫び、抱きついてしまうのです。彼の前には、そんなふうにサティシュを慕う人に、いつもあふれています。
 そのサティシュの人生を決定づけたかもしれない、無銭での世界一周を提案した人物であり、サティシュにとっての偉大な師こそが、この本の著者、ビノーバ・バーべ。彼ほど、シンプルに、パワフルに、愛に動かされて生きたひとを私は知りません。あのガンジーが最も惚れこんだ人でもあります。

 インド中の村から村へひたすら歩くことで、ビノーバは多くの地主から、自発的に、土地を持たない小作人へと、土地を分け与える運動を巻き起こしました。その土地の面積は、四国ほどにもなるそうです。

 小作人の暴動対策に悩む政府に、助言を求められ、政府専用機で首都に来るように言われても、あっさりと、「歩いて行くから、数か月待っていてほしい。」と告げる格好よさ!
 そして、やっとのことで首都に着いても、最も貧しいものが歓迎されない場所、首相官邸などには、決して行かなかったそうです。
 結果、インドの首相が、仕方なく?! ビノーバの野営場?とも言える小屋を訪れるなんて、ちょっと想像するだけで面白い。

 ビノーバに会ったことは一度もないのに、なぜかサティシュに感じる愛おしさを思わず感じてしまいます。この本には沢山の素晴らしい写真と、ビノーバの名言に溢れています。あのビノーバのなんとも言えない笑顔に出会ってほしいのです。
ときにユーモアにも溢れるビノーバの言葉。そして気づきの言葉。
「私は何派に属しているのかと人は問う。
 私が属しているのは頭のおかしな人々のコミュニティだ。
 私は狂っている。
 そしてみんなにも狂ってほしいと願っている」

「掃除をする。
 その場所はまず、我慢できるようになり、次に清潔になり、美しくなり、
 そして最後には神聖になる。
 ・・・心の内の掃除も同じこと。」

 さて、サティシュの母親が、名もない偉大な賢人だったことは、よく知られていますが、ビノーバの母親も、また偉大な名もない賢人だったことがこの本からは伺えます。まだビノーバがまだ子どもだったころ、家に来た乞食に、惜しみなく、その母親は食べものを分け与えたそうです。ビノーバは、正義感からか、まだ若くて健康そうな物乞いに、「食べものを分け与えることは、ただ甘やかすことにならないか? 自ら働くべきではないか?」と母親に尋ねます。すると、母親は、「施しを受ける資格のある者と、ない者を区別する資格が、私たちにあるのだろうか?」と逆に問うのです。そんなことをさらっと言える人って、この世の中に、どれくらいいるんだろう?

 今に生きる私たちへの宝のようなヒントが、この本には溢れています。教育、ローカリゼーション、そしてワンネスの思想として紡がれていきます。

 ビノーバ、そしてビノーバの傍で学び、そしてそれを磨き続けたサティシュの言葉。サティシュは、私たちに、難しいことを簡単に、簡単なことを深く、教えてくれる名人であり、アーティストです。ぜひ多くの人に受け取ってもらいたいと思う。そして自分自身も何度も読み返したい本に久々に出会えることの幸せ。

 今の時代、きっと北朝鮮の問題にせよ、なんであるにせよ、私たちを間違ったほうに導くものがあるとすれば、それは一人ひとりの心の奥にある「怖れ」なのではないかと思います。
この本のタイトルは「怖れるなかれ」。この本を読み終わった時、何一つ、本当は怖れる必要などないのだ、という真実の温かな灯が、心に灯ります。

 素晴らしい本をどうもありがとうございます。

ゆっくり小学校一期生 大野晃子