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    藤原辰史さんより、
    『常世の舟を漕ぎて 熟成版』へのメッセージ

    藤原辰史(京都大学人文科学研究所准教授)

    落ち着いてから、と思っていたのですが、もう止まらなくなって読んでしまいました。
    辻さんが、無になって聞き取られている様子が浮かびました。
    恐るべき耳力だと感じ入りました。

    まず、自分は中高生の時、山間の農村に住んでいましたが、その頃に感じていたはずなのに忘れていたことが一気に蘇りました。
    木や空気や農具や川や魚の素材の匂い。
    とともに、緒方さんの漁師(私なら農民)の像が懐かしかったです。

    緒方さんのお父さんもすごかったのですが、お母さんの「狭い」と思われていた見方の深さに、次第に気づいていかれること、この変化に大変心が動かされました。

    「東京にイヲんおったんな」
    この一文だけでも(読んで良かったと思いましたし)、文字通り、思想書に値すると思います。
    動かない人の「深さ」。これはいま、とても重要な論点だと思います。

    人間は、人権、責任、民主主義など人工用語に流し込まれるゼラチンではないことが、緒方さんの言葉によって、説得されます。
    被害者という存在に安住しない、このようなメッセージを聞くと、緒方さんは純粋な意味で思想家だと思いました。民衆思想家とか、漁民思想家とか、そんな飾りはいらない。純な思想家。